古雜文庫

図書カード

高田保:落武者

表 題 落武者
著 者 高田保
底 本 『文藝公論』第一卷第二號(1927年2月1日 文藝公論社刊)
初 出 同上
更新日 2021/11/03

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   (大きな樹があり、その根元に、大將を眞中とし、五人の落武者一行が、蹲つたまゝ眠つてゐる。)
   (森閑とし、動くものはなく、たゞ蟲が鳴き、風が時折鳴つてゐる。)
   (と突然に、大將が屹として眼を覺す。何かに脅かされたらしく、飛上つて刀の鍔に手をかけながら、
    銳く前方に身構へる。)
大將——誰だ?
   (で一濟に家來達も眼が覺す。同じく立つて銳く身構へる。が森閑として別に何事も無い……かなり長い間。)
  ——(始めて我れに返つたやうに、力無くその構へを崩して)夢か!
家來達——(思はず同じ呟きを)夢?
大將——(こんどは瞭りと)夢だ。
   (いはば、何か出し拔かれたやうな氣持の嘆息。みんな急にぐつたりとした中で、蟲の聲、幽かに風の音……間)
家來の一——(進み寄つて、靜かに)何を御覽なさいました?
大將——(腰を下し)夢だ。他愛もない……。
   (語氣と態度とに、何處か强いて自嘲したやうな處がある。)
  ——(まともに家來達を見て)俺は眠つてゐたのか?
   (家來達、顏を下げる。誰も答へない。)
大將——(自分に答へて)いつの間にか眠つてゐたと見える。
家來の二——(私語して)夢……何を御覽になつたのだらう?
家来の三——(强く)それだ。
大將——まあ坐れ。……黑い、影のやうなものだ……眞黑い、丈の高い、逞ましい……それがのつそりと立ちはだかつて……ぢいつといつまでも