古雜文庫

図書カード

藏原伸二郞:こはれた玩具

表 題 こはれた玩具
著 者 藏原伸二郞
底 本 『文學クオタリイ』第一輯(1932年2月10日 文學クオタリイ社刊)
初 出 同上
更新日 2021/11/11

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——あゝ、突然お呼び立てしてお氣の毒です。ええ、早速ですが、貴男はかう云ふ者を御存知ですかな。いや此書面を知つてゐますか。
 さう云つて私を引見した硏究室內の白髯の紳士は、靜かな口調で訊ねた。コロロホルムやフオルマリンなどの匂ひが烈しく鼻を打つた。老紳士は大きな卓子の引出しから一通の手紙樣のものを取出したのである。

 私は、二ケ月ばかり前、慈善養育院長○○○博士と云ふ知らない人から附箋のいつぱい貼られた葉書を受取つた。最後の附箋はもう長い事音信不通になつてゐる友人鳥澤幸吉から來てゐる。文面は當院收容者に就き至急御面談相願度くと云ふ樣な短い文句であつた。私が不氣味な氣持で出頭したのは其の明る日の午後であつた。

 私はじつと博士の差出した汚い手紙を見つめた。驚いた事には、それは正しく私の書いた手紙の封筒だつた。