古雜文庫

図書カード

細井和喜藏:夫婦わかれして

表 題 失業體驗錄
夫婦わかれして
著 者 細井和喜藏
底 本 『改造』第七卷第十號(1925年10月1日 改造社刊)
初 出 同上
更新日 2021/11/14

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 失業も一度や二度のことなら味があるが、十遍二十遍と度かさなつて來るともう珍しくもない。そしてまた、餘りおそれもしなくなつた。しかし自分一人のことはさておき、六十萬も七十萬もの者がこの失業のために苦んでゐるのかと思ふと、あらためてそら恐ろしい氣持になるのである。時とすると、えゝい、もつともつと失業者がふへて、田舍にも都會にも食へない人間が充滿するといゝ。さうすればきつと、みな眼が覺めてどうかするんだ——といふやうなアナキスチツクな氣持ちに支配されることすらある。
 僕は、紡績工——嚴密に言へば織布機械工(運轉でも保全でもどつちでもやる)であるが、大正十一年の三月に失業してからこの方、未だ完全な就職口を得たことが無い。足かけ四年の失業だ。そして今ではもう、元の職に就くといふことを、すつかり思ひ切るべく余儀なくされてゐるのである。僕の力の及ぶ範圍內では、何ぼさがし𢌞つても無効だ。それでこの頃ではもう、口をさがそうともせずに一生懸命でほかの仕事に熱中して居るのだ。
 その四年間といふかなり長い失業中で、一番こまつた時のことが聞いて貰ひ度い。