古雜文庫

図書カード

中野秀人:街頭喜劇

表 題 街頭喜劇
著 者 中野秀人
底 本 『早稻田文學』第二百三十七號(1925年10月1日 早稻田文學社刊)
初 出 同上
更新日 2021/12/09

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     第 一 景

   プラツトホーム。男AとB

A。きのふはひどい雨だつたねえ。
B。まだ三月なんだらう。
A。見給へ。やつと工事を終つた白い石崖の前で、小ちやい一匹の蛾が飛むでゐるよ。
B。寒くはないか?
A。いゝや、寒くはない。
B。あつ、猫が……
A。なんとなく春宵といふ感じだね。
 「待合室の向ふ側を通る二人連の姿が、硝子越しに見へる。——なぜアスフアルトがこんな堅いんだらう。——なに俺達は疲れてゐるんだ。」
A。(間)僕はきつちり四時に外務省の門を出たんだよ。
B。君、お互に繪をやつていた時はよかつたなあ、君、いまだつて繪を描き度くなることがあるだらうね?
A。ちつとも、朝から晩まで外國電報の飜譯をやつてゐるんだからね。是が僕の辿り着いた寫實さ。
B。さうかね、僕はいまだつて繪具をいぢつてみたいと思ふことがあるよ。しかし思ひ切つて文學に變つてしまつたのがよかつたよ。
A。君は成功したよ。だがこの頃はさつぱり創作を發表しなくなつたじやないか。
B。あゝ、僕もそれで弱つてゐるんだよ。やつぱり勤があつてはね。文藝欄なんか樂のやうでも、自分の仕事に近いのでかへつていけないんだよ。君、外國物で面白いものがあつたら一つ譯して吳れないか。