古雜文庫

図書カード

藏原伸二郞:自殺者

表 題 自殺者
著 者 藏原伸二郞
底 本 文壇新人叢書第十篇「猫のゐる風景」(1927年11月15日 春陽堂刊)
初 出 『葡萄園』第四卷第三號(1926年4月1日)
更新日 2021/12/30

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 冬の底に、レールが二本だ。冷たく光つて、地獄の門まで續いてゐる。荒凉としてゐる冬の夕方。四方の景色はかなしく、からすがたつた一ぴき、滄踉として、鐵道沿線を步いてゐる。乞食のやうだ。食ふものが無くなつた。冬野の重量が、しんしんと鴉の心臟に凝集して來た。それが鐵道を遠く、じつに遠くつつ走つて、どんづまりの所で、陰氣な叫び聲を上げてゐる。風。都會の騷音が、蝶のやうに飛んでゐる。と、鴉は目がくらんで、ぐつたり頭を下げた。地面がひつくり返へつたと思つた。その途端である。鴉は、ひよろひよろと、よろめいて無茶苦茶に線路にしがみついてしまつた。が、鴉の首と胴體は別々になつて、線路の枯草の上に行儀よく竝んで轉つた。その眞つ黑い死體は、もうすつかり氷つて血が出なかつた。