古雜文庫

図書カード

藏原伸二郞:魯春人と旅人

表 題 魯春人と旅人
著 者 藏原伸二郞
底 本 文壇新人叢書第十篇「猫のゐる風景」(1927年11月15日 春陽堂刊)
初 出 不明
更新日 2022/01/08

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 馬に乘つた一人の旅人が、タルリンゴロの溪谷に沿つて、その水源に向つて進行してゐた。
 秋の午後の少し冷めたい陽ざしが彼の背と、淸淨な水を透して川床にきらめいた。彼は自分と馬のやはらかい影を見ながら進んで行つた。兩側の岩壁との間が、約四十米もあつた。が、そこを流れてゐる河水の幅は十米突位に過ぎなかつた。彼はその溪谷の岩壁と河水との間の砂地を行つたのである。石竹のやうな花が咲いてゐた。何か知らない靑い魚の群がその川床の上を走つてゐた。
 兩側の崖の上に鬱蒼とした森林であつた。河邊の草むらやその森の間に、雁、鴨、鷺、鶴等の水禽、及び鳩、山七面鳥、雉、沙鷄などの飛翔するのを見た。
 彼は早朝、ハラモトと云ふ土人部落を立つて約半日の間と云ふもの、その溪谷ばかりに沿つて馬を走らしたのである。
 太陽の鈍い光がやや西の空にあつた。