古雜文庫

図書カード

伊藤永之介:報告演說會

表 題 報告演說會
著 者 伊藤永之介
底 本 『文戰』第八卷第九號(1931年9月1日 文藝戰線社刊)
初 出 同上
更新日 2022/01/14

「ダウンロード」をクリックすると、EPUBファイルをダウンロードできます。EPUB対応のブック・ビューアがあれば、こっちの方が快適かもしれません。 「ブラウザで読む」をクリックするとウェブ・ブラウザ上で読めます。ブック・ビューアのない方、手っ取り早く中身を見たい方は、こちら。
誤字・脱字等のご指摘はinfo@kozats.main.jpまで。

 入口からトコロテンのやうに押し出して來る百姓達を、二人の正服がアトヤマみたいにグン〳〵押し戾した。

『こらツ、入ることならねえ、滿員だ』
 ガヂリ〳〵押しまくられるのだ。正服は癇癪で頰の肉をふるはせながら、司會者の木村に近づいて來た。
『おい君、これ以上入れては困る、何とか整理しろよ』
『いや、まだ入るさ』
 木村は胸に組んでゐた瘦せてコチ〳〵固い腕をほぐさない。
『いかんと言つたら、君がよくても、俺がこまる、ぢや俺の方で整理するからいいか』
 薄暗がりで彼の正服の白目が無闇に光る。
 木村は自分の力を知つてゐた。いや百姓の力を知つてゐた。四人、五人の××なんかものゝ數でもない。
『おい、入口をしめろ、何うするんだ』
 四、五人寄つて來る正服の一人はグイ〳〵木村の肩を小づいた。
『分つてるよ〳〵』
 タヂ〳〵下りながらニヤ〳〵笑つてる木村だ。
 案の定會場一杯詰めかけた百姓は默つちや居ない。
 呶鳴り聲が四方から降る。
『ナタ(×)ぶち折つてしまへ』
『ぶツからめ』
『命知らず』
 喚めき、呶鳴りが雨漏りの輪の廻つた天井にワン〳〵響き返る。
 破れた硝子窓から薄闇がのぞきはじめた。床板が絕えずガタ〳〵鳴る。大きいがもう薪にしかならない芝居小屋だ。