古雜文庫

図書カード

中野秀人:雉

表 題
著 者 中野秀人
底 本 『我觀』改卷第七號(1925年1月1日 我觀社刊)
初 出 同上
更新日 2022/02/01

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 新聞記者になりたてのO・Sは早速手帳を取り出しながら叫びました。
 「雉がゐるんだね、雉がゐるんだね、都市問題になるね」
 辯護士K・Fの新家庭は、陸軍の所有地になつてゐるある森林の側で控目な巢を造りはじめてゐました。勿論自由結婚だつたのです。新聞記者O・Sの考では市內にもかゝはらずこんな大きな森林、雉までも棲むでゐる森林を遊ばせて置くのは不都合だといふわけだつたのです。
 「まあ、君、そんなものは新聞記事にはなりやしないよ、僕達の森なんだからね、氣を付け給へ!」
 雉は笹屋根の下に隱れて方々から洩れて來る人間界の雜音に耳を傾むけて居りました。だが別に變つたことも聞き出さないので、腐葉土の塊を片方の足でばかり太儀さうに搔き毮つて居りました。時折は野砲の素晴しい大きな響が榛木にぶつ付かつて地面をゆるがしたりしましたけれども、すつかり慣つこになつてゐるので、ちつとも驚きませんでした。そしてあの霜の降り始めて來る晚秋の飛び心地を憧れてみました。