古雜文庫

図書カード

堀辰雄:天使にからかふ

表 題 天使にからかふ
著 者 堀辰雄
底 本 「堀辰雄全集」第五卷(1955年3月10日 新潮社刊)
初 出 『若草』第六卷第七號(1930年7月1日 寶文館刊)?
更新日 2022/02/07

「ダウンロード」をクリックすると、EPUBファイルをダウンロードできます。EPUB対応のブック・ビューアがあれば、こっちの方が快適かもしれません。 「ブラウザで読む」をクリックするとウェブ・ブラウザ上で読めます。ブック・ビューアのない方、手っ取り早く中身を見たい方は、こちら。
誤字・脱字等のご指摘はinfo@kozats.main.jpまで。

 誰でも、この輕井澤にしばらく滯在してゐるうちに、なんだか自分が天國の非常に近くにゐるやうな氣がしてくるのである。それは何も、この村が海拔三千尺の高さにあるためばかりでもなければ、また、ここの氣候や風景が申分なく良くて、まるでこの世のものとは思はれぬほどであるためでもないらしく、それは、この村が元來アメリカの牧師等によつて開拓されたものであり、どこへ行つても牧師のやうな顏に出遇ふし、それにこの村で一番立派で目につき易い建物と云つたら、それは外人專用の公會堂であり、そこからは每朝オルガンの音が聞え、讃美歌が聞えてくる……さういふこととどうも密接な關係があるらしいのである。さういふ發見は、最初のうちこそ、珍らしくて面白くもあつたが、それに馴れてくると、私には、どうも私の周圍のものが誰もかも、少々退屈でたまらなくなつてきたのである。私は、さういふ退屈な天使たちに取卷かれながら、誰か一人ぐらゐこれらの天使に反逆するものは居ないかしら、と思つてゐた。