古雜文庫

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中井正一:機械美の構造

表 題 機械美の構造
著 者 中井正一
底 本 新藝術論システム第五卷「機械藝術論」(1930年5月28日 天人社刊)
初 出 『思想』第93號(1930年2月 岩波書店刊)
更新日 2021/02/16

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 「我々は構成の時代にゐる。社會的經濟的新しき條件への適應時代にゐる。我々の船は今や岬を回ぐる。そこに展開さるゝ新しき水平は、これまでの陋習をことごとく論理的構成をもつて修正せる不變の一線である。
 建築に於いて、今や過去の構成方法は終を告げた。建築造型の表現上の論理的根據を、この新しき基礎の上に立てたるときにのみ、人々は建築の永遠なる眞理を見出す。今後二十年が、この建築の課題を創造をもつて解き果すであらう。偉大なる問題の時代、解析、試練美學上の偉大なる價値轉換の時代、この現代こそ、新しき美學の出現するであらうところの時代である」
 コルビュジエによりて、この刺擊的な言葉が發せられてより、多くの肯定と否定がそれに向つてなされてはゐる。只、しかし時はその言葉を載せて推移し、その言葉の意味を實證しつゝあるかの樣である。蓋し目下美學の面してゐる位置は可成或意味に於いてクリシスにある。云はゞ美的價値そのものゝ方向の銳い轉換に臨めるかの樣である。我々はこの時にあたつて、そのよつて來りし、そして將に往かんとするコースの變移に適確なる注意を要するであらう。
 希臘に於いて我等の藝術の特殊性が考察されし時、始めにプラトンに依り次いでアリストテレスに依りて指摘されし槪念は技術 technē であり、又模倣 mimēsis であつた。ロマン派的思想卽藝術至上主義はこれ等の槪念の否定より出發し、その藝術論は、技術の槪念に對する天才の槪念、模倣の槪念に對する創造の槪念の上に成立した。そして、希臘に於いては美は眞と善なる普遍的實在の下に第三の帝國として存在するにすぎないのに反して、ロマン派的考へ方は、美をもつて人間本來の課題として、美の自律的獨立を主張し、つひにはオスカー・ワイルドの「藝術が自然を模倣するのではなくして、寧ろ自然こそ藝術を模倣する。」と云ふごとき逆說的警句とさへもなつたのである。(深用博士〔模倣としての藝術〕思想・11・3)